マーケティング部長ポジションのサーチで、提案書が届きました。フィーは35%。
この数字に交渉の余地があることは、経験上わかっています。同時に、その余地を取りに行くコストもわかっているんです。
カレンダーに入る電話の予定。シャワーを浴びながらリハーサルする、切り出しの一言。低い数字を口にした後の沈黙。そして、自分の報酬を守ろうとするリクルーターの反論。
そうして、送るつもりだったカウンターは、いつの間にか「受け入れたフィー」になります。
フィーを下げる定番の交渉術、つまりボリュームコミット、独占契約、パートナーシップ価格は、どれも最後は同じ場所に行き着きます。電話で、相手に「安くしてほしい」と直接お願いする場面です。
交渉術そのものは、今も有効です。ただ、電話のほうは、もう必須ではなくなりました。
そしてそもそも、なぜフィーは35%から始まるのでしょうか。その理由を知ると、数字の見え方が変わります。
なぜ採用フィーはこんなに高いのか
日本のエージェンシーがあの価格をつけるのは、成功報酬型サーチが抱える構造的な問題を生き延びるためです。この計算式を知っているかどうかで、カウンターの精度が変わります。
成功報酬型は失敗込みの価格設定
成功報酬型(コンティンジェンシー)では、エージェンシーは自社の候補者が採用されたときだけ報酬を受け取ります。日本で一般的なように、同じポジションを複数のエージェンシーに同時に依頼すると、各社は3〜4社のライバルと競争していることを知っています。自社が決めきれる確率は、およそ20%です。
実は、契約形態の選択が、フィーの80%を決めてしまいます。誰かがパーセンテージを口にする、その前に。
5件に1件しか決まらないなら、その1件の勝ちで、残り4件の負けを賄わなければなりません。報酬が確実なら8%で成り立つ仕事が、5倍されて40%になる。あなたの提案書に書かれた35%は、そのエージェンシーが前四半期に他社の案件で落とした分をカバーしているわけです。
もうひとつ、確認しておきたい条項があります。多くの契約には最低フィーが設定されていて、相場は200万円前後。年収600万円のジュニア層を採用すると、この下限が発動します。年収の35%ではなく、最低フィーを払うことになるのです。
定番の交渉術3つと共通する弱点
どの方法も、エージェンシー側のリスクを下げることで、フィーの引き下げを正当化します。そしてどの方法も、最後はあなたが電話をかけることを前提にしています。
ボリュームディスカウント
エージェンシーにとっては、一発勝負のサーチより、予測できる売上のほうがありがたいものです。年間で複数名を採用する予定があるなら、その案件を1社にまとめて依頼し、確実なパイプラインと引き換えに、1件あたりのフィーを下げてもらう。
仕組みはシンプルです。将来の仕事が確実になる分、単発サーチに織り込まれていた「失敗のプレミアム」が要らなくなります。
代償は柔軟性です。年度の途中で採用計画が半分になったら、古い計画のサイズのコミットメントだけが手元に残ります。
独占契約
サーチを1社だけに任せると、フィーの土台にある経済構造そのものが変わります。
5人のランナーの1人として、約20%の確率で走っていたリクルーターが、唯一のランナーになる。成約率が80%に近づけば、フィーに4件分の負けを織り込む必要がなくなります。だから、下げる余地が実際に生まれるんです。シニアポジションやリピート案件なら、なおさらです。
難しいのは、独占を任せる1社をどう選ぶか。コミットする前に、提案を比較する必要があります。
長期パートナーシップの交渉力
初めてのクライアントが割高になるのは、エージェンシーから見て「あなたと働くとどうなるか」がまったくわからないからです。フィードバックは1日で返ってくるのか、1ヶ月かかるのか。採用マネージャーはショートリストを放置しないか。
1件スムーズに成約すれば、その疑問には答えが出ます。そのあとで初めて、「今後も継続したいので、条件のご相談をさせてください」と言える立場になる。低いフィーを、すでにうまくいっている関係の自然な次のステップとして提示するのです。
その立場は、少なくとも一度、定価を払って手に入れるものです。
3つに共通すること
ボリューム、独占、パートナーシップ。どの交渉術も、最後はリクルーターに電話をかけて、お金の話をする場面で終わります。
あなたが要求し、相手が正当化し、あなたが押し、相手が少し譲る。電話のあと、頭の中で再生しながら考えるわけです。数ポイント取り損ねたのか、それとも信頼関係を削ってしまったのか。
これから一緒に働くはずの関係が、にらみ合いから始まります。
今は、フィーも独占期間も明記された提案を横並びで比較できるプラットフォームもあります。便利です。ただ、数字についての会話は、依然として最後に待っています。
本当の問題は交渉の形式にある
実は、リクルーター側もこの電話が苦手なんです。何年もかけてネットワークを築き、業界を学んできた人が、電話口で「なぜ28%ではなく30%の価値があるのか」を弁明している。双方が損をしています。
電話が対立を生む理由
生の会話では、即答を求められます。考える間がないので、沈黙は敵意に聞こえ、フラットな声色は苛立ちに聞こえる。終わる頃には、どちらかが勝ち、どちらかが負けていて、どちらが負けたかはお互いにわかっています。
電話しか手段がなかった時代、これは交渉の必要経費でした。
メールでも解決しない理由
メールはリアルタイムのプレッシャーを取り除く代わりに、別の失敗を持ち込みます。
スレッドは埋もれます。トーンの誤読は、電話よりむしろひどくなります。返信の間に4日が過ぎ、保証期間について段落をやり取りしている間に、最有力候補は他社でサインしています。
誰も問わない質問
交渉アドバイスの世界は、電話の改善を続けてきました。より良いスクリプト、より良いタイミング、より良い心理学。
「そもそも、この電話は必要なのか」とは、誰も問いません。
試してみてください
こちらは、フィーを書き換えられる提案のライブデモです。数字を編集して、送り返してみてください。
今、採用フィーにカウンターを送りました。予定調整も、リハーサルも、耐えるべき沈黙もありません。エージェンシー側は、どの条件が変更されたかを正確に確認して、ワンクリックで応答します。承諾、カウンター、辞退。すべてのステップにタイムスタンプが付きます。お金の話の前に胃のあたりが重くなる、あの感覚が起きる暇もなかったはずです。人に値下げをお願いしたのではなく、ドキュメントを編集しただけですから。フィー交渉は、「会話」であることをやめた瞬間に、「対決」であることをやめるのです。
フィー以外に調整できる条件
パーセンテージは提案書でいちばん目立つ条件です。ただ、カウンターする価値がある条件は、他にもあります。
独占期間
独占ウィンドウは、通常30〜90日です。90日の提案が来たら、60日でカウンターしてみてください。ウィンドウが短ければ、エージェンシーが動かなかったときの損失に上限がかかります。
逆方向にも使えます。長めのウィンドウを差し出すのはひとつの譲歩なので、フィーの引き下げと交換できるんです。守られた時間が長いほど、エージェンシー側のプレッシャーは減りますから。
保証期間
多くのエージェンシーは、成約後およそ90日の保証を付けています。入社2ヶ月目で退職してしまったら、代わりの候補者を探すか、フィーの一部を返金する、というものです。
120日への延長や、返金条件の改善を求めてみてください。在籍期間に応じた按分返金は、よくある要求ですし、エージェンシーも応じてくれます。
支払い条件
デフォルトは、成約から30日以内の支払いです。キャッシュフローが厳しければ、45日や60日を求めるか、フィーの分割を提案しましょう。たとえば、オファー承諾時に25%、入社1ヶ月後に75%、というマイルストーンです。
これらの条件で何を勝ち取っても、エージェンシーを拘束するのは契約書のほうで、提案書は最初のポジションにすぎません。サインする前に、契約書そのもので独占期間・保証・フィーの算定基準を確認してください。
カウンターせずに断るべき提案
カウンターする価値のない提案もあります。
危険信号
曖昧なソーシング戦略:「弊社の豊富なネットワーク」は、あなたのポジションについて何も考えていないエージェンシーが書く言葉です。
実績の裏付けがない:あなたの業界での類似成約の証拠がない提案は、あなたの予算を賭け金にしたギャンブルです。
すべての条件が交渉不可:フィーも、タイムラインも、保証も動かせないエージェンシーは、契約後の付き合い方を先に見せてくれています。
基本情報の欠落:良い提案は、タイムライン、ソーシングチャネル、条件を明記しています。提案書の空白は、請求書のサプライズになりがちです。
本当のコスト・パー・ハイヤーを計算する
パーセンテージだけを理由に断る前に、その数字が乗っている全体を集計してみてください。
直接コスト:
- エージェンシーフィー(年収の%)
- 最低フィーの下限
- サーチ管理に使うチームの工数
間接コスト:
- 空席のポジションが生めていない売上
- 複数エージェンシーを並行管理するオーバーヘッド
- 保証が弱い場合の、採用失敗のコスト
成約率80%で25%を請求するエージェンシーのほうが、5件に1件しか決まらない20%のエージェンシーより、トータルでは安くつくことがあります。紙の上の数字と並べて、成功の確率も天秤に載せてください。
双方にとって心地よい交渉へ
フィーの話し合いを戦闘として扱えば、関係は傷を負った状態で始まります。あなたは安く払うために戦い、相手は高く請求するために戦い、そのうえで、これから一緒に働くわけです。
双方が自分のペースで条件を調整できる余地があれば、力学は変わります。あなたは、失礼だと感じることなくカウンターできる。エージェンシーは、追い詰められることなく応答できる。フィーは下がり、関係は交渉を生き延び、誰もシャワーを浴びながらリハーサルしなくていいのです。
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