リクルートの調査によると、日本の中途採用にかかるインハウスコストは1件あたり約103万円です。一方、年収1,000万円の候補者を35%のフィーで決めれば、エージェンシーへの支払いは350万円。
3倍以上の差です。「エージェンシーは高い」と、ここで分析を止めてしまう採用責任者は少なくありません。
でも実は、この2つの数字は別のものを測っているんです。
103万円という数字は、採用が1件もなくても発生し続ける「採用機能の固定費」の上に乗っています。しかも、自社のチームが欲しい候補者に本当にリーチできる、という前提付きです。日本では、この前提がかなり危うい。失業率は2.5%(2026年6月)、3万か所を超える有料職業紹介事業所が同じ浅い候補者プールを追いかけ、LinkedInがカバーしているのは総人口の約5%。ロンドンで機能するソーシング手法が、東京ではほとんど機能しません。
インハウスとエージェンシー、どちらが有利になるか。答えはあなたの採用件数、ポジションの種類、そしてスピード感で決まります。
1件あたりの比較では判断を誤る理由
採用単価は、一見すべてを含んでいるように見えます。だからこそ誤解を招くんです。
103万円という平均値に含まれるのは、求人広告、書類選考、日程調整。含まれないのは、リクルーターの給与、ATSの費用、求人媒体の年間契約、そしてサーチが続く間ずっと空いたままの席のコストです。
同じ罠は、エージェンシー側にもあります。令和6年度(FY2024)の常用就職1件あたりの手数料は約103万円。リクルートのインハウス単価とほぼ同額で、一見すると両者のコストは変わらないように読めます。ただしこの全国平均には、日本で届け出られたすべての常用就職が含まれており、その多くはバイリンガル専門職よりはるかに低い年収帯です。自社のサーチは、どちらの平均値でもなく、フィー率と年収帯で見積もってください。
エージェンシーのフィーには、こうした隠れ場所がありません。入社日に初年度年収の一定割合を支払う。それまでの支払いはゼロです。
分かれ目は固定費です。年間20件採用する企業は、採用インフラのコストを20件に分散できます。年間3件の企業は、ほぼ同じインフラ費用を払いながら、3件でしか割れません。
インハウス採用の本当のコスト
1件目が決まる前に発生する固定費
人件費:日本のリクルーターの年収は600万〜800万円。シニアの採用マネージャーなら1,000万円以上です。採用が止まっている四半期でも、この給与は変わらず発生します。
テクノロジー:ATSの平均コストは年間約72万円。ソーシングツールやバックグラウンドチェックを加えると、さらに年間50万〜100万円かかります。
求人媒体:Wantedlyは年間66万円から。BizReachは基本料金に加えて約15%の成功報酬が乗ります。中途採用では複数媒体の併用が標準的で、その場合は年間150万〜300万円になります。
合計すると、1人も入社していない段階で、採用機能に年間800万〜1,200万円かかる計算です。
1件ごとに積み上がるコスト
固定費の上に、採用1件ごとの変動費が乗ります。書類選考・日程調整・オファー交渉にかかるリクルーターの時間、そのポジションのための広告費、適性検査、バックグラウンドチェック、シニアポジションなら面接のための出張費。
公表されている93万〜103万円という採用単価の平均値は、実はこの変動費の部分を指しています。
どの予算にも現れないコスト
インハウス採用で本当に高くつく失敗は、予算書のどこにも出てきません。
収益を生むポジションが90日間空席のままなら、その損失はエージェンシーに払うどんなフィーよりも大きくなります。長引くサーチを閉じるプレッシャーの中で、社内チームは質を妥協しがちです。そして採用ミスは、気づいて、退職してもらい、採り直すまでに6〜12ヶ月分の給与を飲み込みます。その間、リクルーターが1件の「埋まらないポジション」に費やす1週間は、埋められたはずの3件に使えなかった1週間です。
エージェンシーの請求書にはベンダー名と金額が明記されているので、経理がしっかりチェックします。一方、こうした社内の損失は「通常業務の摩擦」として処理される。だから誰もチェックしないんです。
エージェンシーの本当のコスト
日本のフィー体系
日本のエージェンシーは年収の30〜40%を請求します。多くの市場の約2倍です。年収500万円ならフィーは150万〜200万円。年収1,000万円なら300万〜400万円になります。
この数字の背景には、過密な市場構造があります。3万か所以上の事業所が有料職業紹介事業の許可を持ち、その大半が成功報酬型(コンティンジェンシー)で動いています。複数のエージェンシーが同じポジションを競い、決めた1社だけが報酬を受け取る仕組みです。
4社が同じサーチに入れば、各社の勝率は25%が前提になります。実際の成功報酬型の成約率は約20%前後です。これが成功報酬型の崩壊スパイラルの正体で、あなたの案件で成功した30〜40%のフィーは、どこか別の場所で失敗したサーチの穴埋めに使われているわけです。
パーセンテージよりも契約モデルが重要な理由
成功報酬型(コンティンジェンシー)(フィー30〜40%):複数社が競争し、1社だけが報酬を得る。成約率は約20%。
独占契約(エクスクルーシブ)(フィー20〜30%):1社が30〜90日間ポジションを独占的に担当し、約80%を決めきる。
候補者プールは同じ。仕事の中身も同じ。変わるのはエージェンシー側の勝率です。勝てると分かっているエージェンシーは、勝てる前提の価格をつけられます。
35%の成功報酬型と25%の独占契約は、答えている問いが違うんです。前者は「負けが多い商売のコスト」をカバーする価格。後者は「最後までやり切るつもりのサーチ」の価格です。
損益分岐点は年間5〜7件
採用機能の固定費を標準的なフィーで割ると、分岐点が見えてきます。
- インハウスの固定費:年間800万〜1,200万円
- 標準的なエージェンシーフィー:1件あたり175万円(年収500万円、フィー35%の場合)
- 損益分岐点:800万〜1,200万円 ÷ 175万円 = 年間約5〜7件
年間5〜7件未満なら、リクルーター、ATS、求人媒体のコストは、置き換えるはずだったエージェンシーへの支払いより高くつきます。それ以上なら、採用が1件増えるごとにインハウスが安くなっていきます。ただし、リクルーター1人でその件数を本当に回せること、そして社内チームで埋められるポジションであることが条件です。
給与水準もツール構成も会社ごとに違うので、自社の数字で分岐点を計算してみてください。
どんな数字を入れても、形は変わりません。採用件数が少なければエージェンシーが有利。分岐点を超えれば、インハウスの削減効果は毎年積み上がっていきます。
ただ、件数は最初のフィルターにすぎません。ポジションの種類と緊急度について、いくつかの質問に答えると残りが整理できます。
結果は最終判断ではなく、振り分けの出発点として捉えてください。この使い分けの本質は、「それぞれにしかできないことは何か」にあります。
ポジションの種類でラインが動く理由
カスタマーサポートの採用とVP of Engineeringの採用。年間の採用件数がいくつであろうと、この2つは分岐点の反対側に位置します。
再現性のある大量採用ポジションは、社内プレイブックが報われる領域です。一度作れば、四半期ごとに回せます。シニアや専門性の高いポジションは、そのプレイブックが通用しない領域です。候補者プールは狭く、候補者はどこにも応募しておらず、ミスのコストは年収に比例して膨らみます。急ぎのポジションは、すでに候補者を持っている側が勝ちます。それはたいていエージェンシーです。社内チームの立ち上げには数ヶ月かかりますが、温かいショートリストを持つリクルーターは電話1本で動き出せます。
日本には、さらに独自の時計が乗ります。新卒採用は4月入社という厳格なスケジュールに縛られ、エージェンシーを使った中途採用でも60〜90日かかる。だからこそ、ターゲット候補者をすでに知っていて、かつあなたの案件を優先してくれるエージェンシーが、タイムラインを縮める唯一の手段になることが多いんです。
損益分岐点が教えてくれるのは、何件ならチームを持つ意味があるか。どのポジションをどちらに任せるべきかは、教えてくれません。
エージェンシーがどんな社内チームにも勝る領域
パッシブ候補者との関係
エージェンシーの最大の資産は、フィー交渉の場ではほぼ話題になりません。優れたリクルーターは、あと3〜5年は動かない候補者との関係を維持しています。転職にまだ慎重さが残り、キャリアがゆっくり動く日本市場では、この長い関係が「誰が最初に求人を知るか」を決めます。あのエンジニアがついに転職を決めたとき、最初の電話は何年も半年ごとに連絡をくれたリクルーターにかかる。あなたの求人票の順番は、その電話の後です。
社内のリクルーターは、今四半期の採用目標で評価されます。3年後に効いてくるかもしれない候補者を育てても、誰も給与を払ってくれません。だから誰もやらないんです。
マーケットインテリジェンス
エージェンシーは一日中、候補者と会話しています。つまり市場のライブセンサーなんです。競合が実際にいくら払っているか、なぜ人が辞めるのか、あなたの会社が外からどう見えているか。それは、サーベイでは取れない給与データ、競合の採用計画の早い兆し、直近3件のオファーが断られた本当の理由として表れます。
エージェンシーは、このインテリジェンスを「投資する価値のあるクライアント」には共有し、「取引相手」には出しません。これがエージェンシーが一部の案件を後回しにする理由の一つであり、最安のフィーが最良の取引になることが滅多にない理由でもあります。
サージキャパシティ
採用需要は予告なく跳ねます。資金調達がクローズする。同じ週に2人が退職する。新市場が開く。社内チームの増員には数ヶ月かかります。一方、温めてきたエージェンシーとの関係なら、その週のうちにスパイクを吸収できます。あなたの側にヘッドカウントは1人も要りません。
社内チームがどんなエージェンシーにも勝る領域
会社への深い理解
自社のリクルーターは、求人票に決して載らない要件を知っています。新人が定着しないマネージャー。人が抜け続けているチーム。採用ページのカルチャーと水曜日の会議のカルチャーのギャップ。エージェンシーもいずれ学びますが、その授業料はミスマッチな候補者という形で支払われます。フィットが成否を決めるポジションでは、社内チームが先にスタートを切っています。
手元に残る資産
社内チームが築くものは、すべて自社のものです。応募者データベース、大学との関係、リファラルネットワーク。これらは年を追うごとに価値が積み上がります。エージェンシーのネットワークは、契約が続く間だけあなたのために働き、契約が終わればエージェンシーと一緒に帰っていきます。
採用ブランド
社内のリクルーターが代表するのは1社だけで、候補者とのすべての接点が同じ評判に積み立てられます。エージェンシーのリクルーターは今月だけで十数社のクライアントを代表していて、インセンティブはクロージングにあります。
どのポジションをどちらに任せるか
多くの企業はこれを「エージェンシーかインハウスか」の二択として捉え、予算のたびに議論をやり直しています。でも本当の問いは、最初から二択ではありませんでした。どのポジションをどちらのチャネルに流すか、なんです。
インハウスで対応すべきポジション
再現性のある大量採用ポジション。同じポジションを四半期に5件採るのはプレイブックの問題で、プレイブックは社内に置くべきものです。
カルチャーが決め手のポジション。エージェンシーのソーシング力よりも、自社リクルーターの会社理解が効く領域です。
若手ポジション。応募者が多く、低めの年収に対してエージェンシーの最低フィーが最も重くのしかかる領域です。
エージェンシーに任せるべきポジション
シニア・専門性の高いポジション。パッシブソーシングと深いネットワークが結果を決めます。350万円のフィーは、収益を生むポジションの6ヶ月の空席に比べれば安い買い物です。
急ぎのサーチ。チームがキャパシティの限界にあるか、今すぐ候補者が必要なとき。
市場参入。まだネットワークのない新しい職種、拠点、業界での採用。
サージキャパシティ。採用量が一時的に社内の処理能力を超えるとき。
ハイブリッドを機能させる4つの原則
- 難しいポジションはエージェンシーから学ぶ。まずエージェンシーにサーチを攻略してもらい、うまくいった方法を記録して、再現できる部分を社内に取り込む。
- 閑散期にパイプラインを構築する。目の前のニーズはエージェンシーに任せながら、長期的な資産を育てる。
- サーチの合間もエージェンシーとの関係を温めておく。パートナーとして扱ってくれるエージェンシーほど、採用が跳ねたときの反応が速い。そしてパートナーとして扱ってもらえるかは、案件のない期間に関係が続いているかで決まります。
- 提案は同じ条件で比較する。ハイブリッド型が成立するのは、エージェンシーの評価にかかる手間が、削減できる調整コストを下回るときだけです。
AirTAは、エージェンシーが独占契約のサーチに対して標準化された提案を送るマーケットプレイスです。ハイブリッド型を運用していて、エージェンシー側に競争してもらいたい方へ。無料で求人を掲載して、提案を並べて比較してみてください。
よくある質問
日本の平均採用単価はいくらですか?
インハウスの中途採用で平均約103万円、新卒採用で約94万円です。どちらも1件ごとの変動費のみを指しており、採用機能を維持する固定費(給与、ツール、サブスクリプション)として、別途年間800万〜1,200万円がかかります。
日本のエージェンシーはいくら請求しますか?
初年度年収の30〜40%です。新規クライアントやスタートアップは通常35〜40%、エージェンシーとの関係が確立している企業は30〜35%になります。
どの程度の採用件数でインハウスチームを作るべきですか?
年間5〜7件が目安です。年間固定費を標準的なフィーで割ったときに交差するポイントがここになります。ただし、ポジションの構成、緊急度、パッシブ候補者へのアクセスによって、このラインは会社ごとに動きます。
エージェンシーとインハウス、両方使えますか?
はい。採用がうまい企業のほとんどが併用しています。大量採用とカルチャー重視のポジションはインハウスで、シニア・専門性・急ぎのポジションはエージェンシーで、という分担です。
なぜ日本のエージェンシーフィーは他の市場より高いのですか?
候補者の希少性、終身雇用の慣行、バイリンガル人材プールの薄さ、パッシブ人材が中心の市場構造、そして勝った案件のフィーが負けた案件を補填する断片化した成功報酬型の構造。これらが重なった結果です。
まとめ
これから12ヶ月の採用件数を数えてみてください。5〜7件未満なら、エージェンシーフィーの方が安いインフラです。それを超え、しかも体系化できるポジションに件数が集中しているなら、社内チームは元が取れて、その後も削減効果を生み続けます。
次に、ポジションを振り分けます。プレイブック化できるものは社内へ、希少で急ぎのものは外へ。
そして、エージェンシーとの関係はパートナーの水準で維持してください。あなたの一番難しいサーチを決めるパッシブ候補者は、もうすでに誰かと話しているのですから。
メタ要素
Meta Title (JA): 日本でインハウス採用とエージェンシーを使い分ける判断基準(診断クイズ付き)
Meta Description (JA): インハウス採用は1件約103万円、エージェンシーは年収の30〜40%。固定費年間800万〜1,200万円を含めると損益分岐点は年5〜7件。自社の数字で計算できます。